日 時:2023年4月23日(日) 午後2時より ZOOM利用で行います。
テーマ:「なぜ被爆国日本が54基も原発をつくったのか?―核武装をめざす保守政権」
報告者: 井ノ 口貴史さん(立命館大学非常勤)
【報告概要】『歴史地理教育』2023年3月号の小出論文の要旨を教材のかたちで提示します。東電福島第一原発事故から11年、岸田政権は原発再稼働、新増設、運転期間を60年に延長する政策を進めようとしています。世論調査では、2023年2月段階で原発再稼働賛成が51%となり、反対42%を上回り、22年までの調査と賛否が逆転しました(「朝日新聞」2023年2月調査)。ウクライナ戦争や地球温暖化という「危機」に便乗した岸田政権の政策が市民の判断に影響したのでしょう。政府がすすめる原発政策は、18歳選挙権のもとで、高校生が政策判断を迫られる課題です。では、高校現場での東電福島第一原発事故や原発再稼働問題はどれくらい授業で取り上げられているのでしょうか。私が行ってきた京都橘大学(2011-20年)と立命館大学(2021-22年)における大学1年生を対象とした学習履歴調査では、京都橘大の2020年調査で東電福島第一原発事故の授業を受けたとする学生が20%(この間最多)でした。立命館大学での調査では「原発再稼働」についての授業を受けた学生は2022年で24%(21年は18%)でした。
歴史総合や地理総合のキーワードのひとつが「持続可能な社会」です。ところが、現行の学習指導要領には「持続可能な社会」の定義はありません。私は、宮本憲一の「Sustainable Society(宮本は「維持可能な社会」と訳します)」の定義を参考にしています。宮本は、①平和の維持(特に核戦争の防止)、②環境と資源を保全・再生し、地球を人間を含む多様な生態系の環境として維持・改善、③絶対的貧困を克服して社会的経済的な不公正を除去、④民主主義を国際・国内的に確立、⑤基本的人権と思想・表現の自由の達成と多様な文化の共生、という課題を総合的に実現する社会であると定義しています。そして、「Sustainable Society」の実現は困難が多いとした上で、「なかでも人類が歴史のうえで実現できていないのは平和、環境保全、経済的公平である」と指摘します(宮本憲一『環境経済学 新版』岩波書店2007年)。
私はこの定義に沿って原発の教材開発と実践を2011年より行ってきました。原発は、経済的不公平(格差)の上に成り立ち、放射能によって地球環境を長期にわたって破壊し、核兵器開発によって平和を脅かすものであり、21世紀の人類的課題に応えるものではないと考えます。そこで、原発問題を考えるフレームワークとして、①エネルギー・地球環境問題、②生存権の問題(経済的不公正・格差社会)、③平和の問題、の3つの視点を設定して教材化をすすめてきました。今回の学習指導要領で高校の社会科系科目に登場した必修科目に割り振ると、①は地理総合、②は公共、③は歴史総合にまたがる課題です。今回の報告では、③を報告します。