第3回講演会 『沖縄戦』の教訓から琉球の『自治』へ

第3回講演会 2013年3月15日

松島 泰勝さん(龍谷大学教授、琉球民族独立総合研究学会共同代表)

 松島先生は1963年石垣島生まれ、早稲田大学で経済学博士号を取得。グァム日本国総領事館とパラオ日本国大使館の専門調査員、東海大学教授を経 て現在、龍谷大学経済学部教授。さらに「NPO法人 ゆいまーる琉球の自治」代表でもある。主な著書として『琉球独立への道』『琉球の「自治」』『沖縄島 嶼経済史』『ミクロネシア』などがある。

「『沖縄戦』の教訓から琉球の『自治』へ」

1.琉球独立の根拠について

 1879年の琉球併合により琉球人の領土は奪われ、現在の「沖縄県」成立の根拠法である沖縄返還協定は密約に基づき、その成立過程には当事者であ る琉球人、琉球政府は参加できなかった。19世紀の琉球併合、20世紀(1972年)の「復帰」において、琉球人は、住民投票(合意)によって自らの政治 的地位を決定したのではない。

 琉球は形式上、「沖縄県」という日本の一自治体とされているが、その実態は琉球人の領土が奪われ、さまざまな暴力が押し付けられ、国際法で保障された人民の自己決定権の行使が認められなかった植民地である。

 「復帰」とは、「元の状態に戻ること」を意味するが、琉球の元の状態は日本国ではなく、琉球国である。琉球は「日本固有の領土」ではない。

「復帰」体制の特徴は

(1)日本国による琉球統合の深化であり、

(2)琉球人の生命や生活よりも、日本人のそれらを重んじ、基地を強制する差別体制であり、

(3)政治的、軍事的、経済的利益が琉球から日本に流れる植民地体制である。

 内閣府沖縄担当部局や沖縄振興特別措置法等の琉球限定の組織や法律の存在、基地の強制、日本国主導の開発、独自の教育権の欠如等を見ても琉球は植民地であるといえる。

 琉球の植民地性を隠ぺいするために「県」という偽装が行われた。今後、一括交付金を含む振興開発資金がどれほど与えられても、日本政府への経済依存、基地の強制、日本の企業や日本人による支配がさらに進むだけである。

 これまで日米両政府、日本国民の多数派が琉球人の自己決定権を無視して琉球の方向を決めてきたが、これは明確な国際法違反である。オスプレイ配備に関して多くの琉球人が強く反対したにもかかわらず、日本政府は配備を強行し、宗主国の絶対的な優位性を誇示した。

 この41年間で明確になったことは、米国に従属する日本、その日本の統治下に琉球がある限り、基地はなくならないということである。琉球人の奴隷的境遇を廃止するための具体的な選択肢として独立がある。

 日本政府は琉球を日本の固有の領土であると考えているから、辺野古基地建設案を推し進め、オスプレイを配備した。琉球の領土権を保有する日本政府が琉球の現在や将来に対する決定権を持っているという論理である。

 しかし、日本政府は琉球に対する領土権を正当化することができるのだろうか。琉球は琉球国という日本とは別の国家であったのであり、「日本固有の 領土」ではない。琉球国を消滅させて、強制的に日本国の一部にしたのである。1880年の分島改約案で、宮古・八重山諸島を清国領とする代わりに、清国内 で日本人による通商権を得ようとした。日本政府は琉球を他国に分割譲渡しようとしたのであり、尖閣列島を含む琉球を自らの領土であると堂々と言える立場で はない。

 鳩山政権以降、日本国民の大半が基地の引き受けを拒否していることが白日のもとに晒された。

 日本政府は自国民である琉球人の生命を守らず、地位協定を改正しようとさえしない。このような日本に対して琉球人は「沖縄差別」と批判するようになった。それは琉球人が自らを被差別者、抵抗の主体として自覚したことを意味する。琉球人が今まで従属的な地位を逆転させ、日本と平等な関係性を形成しようとするナショナリズムが台頭してきたのである。

 琉球のナショナリズムは植民地主義に抗うマイノリティ・ナショナリズムであり、支配者の力学で動く日本のマジョリティ・ナショナリズムとは全く異なる。

2013_03_15_ma1

2.琉球の脱植民地化を求めて

 これまで、琉球人は国連を使って脱植民地化を進めてきた。

 1962年の琉球政府立法院による「2.1決議」は国連憲章、植民地独立付与宣言に基づいて米軍統治を批判した。琉球人は1996年以降現在まで 毎年、国連の先住民作業部会、先住民族問題常設フォーラム、先住民族の権利に関する専門化機構、人種差別撤廃委員会、脱植民地化特別委員会等において脱植 民地化運動を展開してきた。

 その結果、2008年、国連の市民的及び政治的権利に対する規約委員会は琉球人を先住民族と認めた。

 2010年、第76会期国連人種差別撤廃委員会は琉球人を独自の民族として認識し、米軍基地の強要を人種差別とみなし、義務教育の中で琉球諸語による教育を求めるとともに、差別の監視や権利保護について琉球と協議するよう日本政府に勧告した。

 植民地で生きているすべての人間は、国際法で保障された人民の自己決定権を行使して、完全独立、対等な立場で統合等の政治的地位を住民投票で決め、独自の政府や議会を設立することができる。

 国連脱植民地化特別委員会は、非自治地域リストに登録された植民地を脱植民地化させるための組織である。本来ならば戦後、日米両政府は琉球を同リストに登録させる義務があったが、それを行わないまま今に至っている。

 1945年に51か国によって設立された国連には現在193か国が加盟し、国の数は4倍に増えた。

 世界の多くの植民地の人々は大国による支配と差別から解放され、平和・生命・生活、基本的人権を守るために独立の道を選択した。琉球にもこの道は開かれている

 たとえば、グァム政府脱植民地化委員会、ニューカレドニア、仏領ポリネシア、スコットランド、スペインのカタルーニャなどでは独立を問う住民投票が実施されることになっている。

3.琉球独立に関する様々な誤解

(ア)「琉球は日本の一部のままで植民地体制を廃絶させ、基地を縮小させることができる」

 10万人の反対集会、全議会の反対決議、知事や市長の抗議にもかかわらず、日本政府は有無を言わさずオスプレイを配備し、琉球の怒りを無視してい る。沖縄単独州になれば基地を撤去できるだろうか。日本の分権化が進んでも、外交、安全保障、金融、経済政策等は中央政府が掌握することが前提とされてお り、日本の安全を理由にして特例型沖縄州に基地は押し付けられるだろう。道州制導入は、自民党の基本政策でもある。41年、400年の琉・日の歴史を考え ると日本を信頼し期待することができるだろうか。

(イ)「独立後、琉球の経済は破綻するのではないか」

 新古典派経済学理論に基づく振興開発、市場自由主義、日本企業の誘致、インフラ整備、規制撤廃の中で日本政府による「開発の目玉」とされる金融特 区、IT特区、自由貿易地区等はほとんど失敗した。自由競争が促され日本企業による琉球企業の吸収・合併、倒産と失業問題が進んだ。41年間も振興開発が 行われたが、経済自立はせず、失業率も高く、所得も低く、県内・外格差も大きい。

 日本国の中で琉球の手足が縛られたことが失敗の最大の原因である。琉球を支配し、管理する日本政府という枷を外すだけでも、経済発展の可能性は大きくなる。

(ウ)「琉球は独立してもやっていけるわけがない」

 「琉球は経済自立していない。日本政府からの補助金に依存している」という洗脳がある。

 日本は自らは自立しないで、琉球に自立という目標を示し、指導するという立場に立っている。

 しかし琉球は約500年、東アジア、東南アジアの中で独立国家として存在してきたという経験を持っている。

 琉球人の世界的ネットワーク、琉球人の政治・経済能力は向上している。経済のグローバル化、IT化、アジア経済の発展等により琉球は日本国という枠組みから離れることでかえって発展の可能性が広がる。

 かつて琉球国の交易相手国であったアジアの国々では民主化や経済発展が著しく進んだが、琉球には基地が押し付けられ、日本に経済従属したままである。
本来得られたはずの莫大な経済利益が基地によって奪われた。

 「復帰」後日本の企業や製品が琉球の市場を席巻し、琉球の企業を倒産させ、多くの失業者が生み出された。

 経済主権を握る日本政府による振興開発には、琉球人という主体の存在や参加が欠如している。

 独立後、琉球は関税、通貨、予算に対する主権を獲得し、琉球人の雇用を増やし、琉球企業の発展を押し進める。琉球内で琉球人のための生産を行う企業の設立や進出を促す。琉球独自の労働法、環境法、税のルールを守ることが外資には求められる。

 琉球は市場のルールを定め、金融政策、財政政策、為替政策、税制等の政策を策定し、ザル経済(植民地経済)の抜け穴を塞ぎ、基地跡地を発展させることで自立経済を実現することができる。

 沖縄県は現在、国税として年間2700億円の税金を日本政府に払っているが独立すればそれは琉球のものになる。さらに沖縄県の地方税収入は約1100億円ある。
米軍基地を撤去して、跡地利用を進めれば雇用効果、経済効果は現在より何十倍以上になるだろう。琉球で経済活動を行う日本企業を含む外資に対する課税収入によりザル経済の穴を塞ぐ。日本政府には賠償金を請求し、琉球にある日本の国有地・財産は収用できる。

 これまで琉球に日本政府が大量の公的資金を投じても、島外に流れ、外部資本の支配を強化しただけである。琉球側が経済主権を持てば、琉球内で経済循環を促進させ経済自立を実現することが可能になる。

(エ)「独立したら中国が侵略するのではないか」

 中国による琉球侵略は将来における一つの仮説でしかない。しかし、日本が琉球を侵略し、日米が植民地支配しているという現実の方が、琉球人にとっては解決すべき最優先の課題である。

 中国が琉球侵略という暴挙をした場合、世界中から非難され国連常任理事国としての威信、世界第二位という国際的地位を失うだろう。そのようなリスクを冒して琉球侵略をしても全く利益にならない。

 「中国が琉球を侵略する」という言葉は、日米による琉球植民地支配を永続化させるための脅し文句である。

 米軍が琉球にいても最近の中国における反日的破壊活動を抑え、中国人活動家による尖閣諸島上陸や領海侵犯を抑えることはできなかった。つまり米軍は抑止力として機能していないのである。

(オ)「新崎盛暉先生の琉球独立批判」

(1)「今の東アジアの情勢の中では不可能に近い。帝国主義国家の存在がある」に関して

 これまで独立してきた世界中の植民地は厳しい帝国主義の中におかれていたが、それでも独立を実現できた。緊張が高まる東アジア地域や琉球自体の平和のために琉球独立が必要である。

 東アジアの緊張を引き起こしている既存の国家にまかせていたら、東アジアで戦争が勃発し、琉球は戦場の一つになる。日本は尖閣諸島の国有化、「島嶼防衛」によって琉球を再び「捨て石」にしようとしている。琉球が戦場にならないためにも独立する。

 現在の日本はジレンマを抱えている。(1)日米安保体制の堅持(対中国、北朝鮮への対抗)(2)経済的には中国、アジアとの関係強化。(1)を強化すれば(2)が衰退して日本経済の基盤が揺らぐ。日本はみずからの矛盾を琉球に集中させ、犠牲を強いている

 東アジアで超国家の地域統合をするための交渉、協議のセンターとなりうるのはこれまで反戦平和を強く求め、運動をしてきた琉球しかない。アジアの状況はむしろ琉球独立を後押ししている。

 台湾ナショナリズムの台頭、東アジア、東南アジアにおける民主化、経済統合化、政治統合化の動きが活発化している。中国、台湾と太平洋島嶼国の政治経済的関係は強化されており、アジアにおける経済発展が、独立後の琉球の経済自立を支える。琉球はアジア経済のダイナミズムに対して、日本政府の介入を受けないで直接的に参入できる。

(2)「沖縄は沖縄として自己決定権を拡大していく。それは地方自治の範囲で可能かもしれない」に関して

 地方自治とは、中央政府が地方政府を対等な交渉相手として扱うことが前提となる。しかし、琉球がどんなにオスプレイに反対し、地位協定改正を求め、基地の県外移設を訴えても国は聞く耳を持たない。そのような状況において地方自治は不可能である。琉球と日本とを対等な関係にするのが、自己決定権の行使であり、独立である

(カ)「2013年1月30日、国民新党の自見代表の発言」

 「普天間基地問題が分離独立運動を引き起こし、それがゲリラ闘争に発展し、東京でも爆弾テロが発生する」

 これは「独立=ゲリラ闘争=テロリズム」という図式で、独立について考え議論し政治活動をすることを抑圧するものであり、植民地支配、基地の押し付けを固定化しようとする言説である。琉球差別の一形態である

 独立を目指すこと、独立に向けて議論し、活動することは国際法によって保障されている。国連憲章や国際人権規約等は、独立を含む自己決定権行使を認めている。琉球独立に関する研究や議論を行う権利がある。

(キ)「日本政府には領土保全の権利があるのではないか」

 ある国において民主主義が実現していれば領土保全が優先され、独裁国家であれば領土保全は優先されないという学説がある。日本は一応、民主主義国 とされている。しかし、琉球全議会の反対決議、全首長による直訴にもかかわらず、オスプレイを強制配備した。在日米軍基地特措法を国会で成立させ、振興開 発を利用して基地を押し付け、日米地位協定の改正要求も無視し、琉球人の声を封じ込めてきた。

 法手続きの上では民主主義の形式(多数決)を踏まえているが、日本政府の米軍基地に関する施策は琉球人にとって「独裁的」といえるほど過酷である。

 琉球に対して形式民主主義しか実現していない日本は、領土保全を唱える確たる根拠を持っていない。

(ク)「琉球独立運動は排外主義につながる」

 琉球の政治的地位を決定できるのは、国際法上の法的主体である琉球人である。新たな政治的地位を琉球人が住民投票で実施し、独立後の憲法を他の民族を含んだ全住民で行うという方法が考えられる。

 独立後、島嶼民の生活、地元企業、文化や環境を保護するための法制度を制定する。島嶼国民族を守るために国家を形成するのであり、移住者はそれを前提に島嶼で生活することになる。

2013_03_15_ma2

4.なぜ今、琉球独立なのか

 基地被害や差別を告発するだけではなく、問題の源をなくすための具体的な方法として、独立を本気で考えなければ、琉球はこの先も屈辱の歴史を歩まされるだろう。

 琉球が主権を持たない限り、オスプレイの強制配備、辺野古での基地建設等、琉球人の人間としての権利を無視して、日米両政府は琉球の地を自分勝手に使うだろう。

 沖縄県が日本の一つの地方自治体として安住するのではなく、独立を前提として政治経済を主体的に進める中で、日米両政府との交渉力も増し、差別や無視の対象でなくなる。リアルポリテックスの手段として独立論をどのように使いこなすかが琉球人に問われている。

 独立は、基地を自らの手でなくすための手段であり、日本による400年にわたる差別や支配から解放されるための手段であり、経済自立を実現し、琉球人の生活や経済を創造するための手段であり、自らの言葉、教育、文化を守り、自然を守るための手段である。

 日本に外交を任すことはできない。尖閣諸島の国有化という日本外交が戦争の危機を招き、琉球が戦場になる恐れが高まる。琉球が生き残るための独立である。

「独立すると琉球は孤立する」か?

 外交権を行使し、現在よりも世界中の国や地域と政治的、経済的、文化的に深くつながることが可能になる。

 基地が存在することで琉球は「悪魔の島」とされ、加害者にされてきた。独立により一切の基地を廃絶する。

 国連のアジア本部、国際機関、国際的なNGO機関等を琉球に設置し、世界に平和を発信し、世界中に仲間を増やす。島嶼で地上戦が展開されると、軍 隊は住民を守らず、多くの琉球人が犠牲になるというのが沖縄戦の教訓である。琉球の安全保障は、軍隊基地によってではなく、琉球がこれまで培ってきた平和 の思想や実践、文化力に基づき世界中からの信頼とネットワークに基づいて行われる。

琉球は東アジア、東南アジアにおける地域統合のセンターになる役割があり、孤立化している場合ではない。

5.どのように独立するのか

(1) 琉球人の一人一人が独立を、脱植民地化、脱軍事基地化のための具体的な選択肢であると考える。

 独立に関する学会を設立し、具体的、客観的に、そして強い情念を持って琉球独立を議論する。

 国連脱植民地化特別委員会の「非自治的地域」リストに琉球を登録するよう、琉球全体で運動を展開する。沖縄県議会が登録を求める決議を行う。

(2) 沖縄県議会、または市民団体連合による独立を問う住民投票を国連の監視下に置いて実施する。独立が選択されれば、独立宣言を世界に向けて発する。自らの政府、議会、裁判所を設置し、世界に対し国家承認を求める。そして、国連に加盟する。

(3) その過程で、国連、非同盟諸国、太平洋島嶼国フォーラム、EU,ASEAN,国際的NGO等を通じた琉球独立を支援する国際的なネットワークを形成する。

(4) 国際法に基づいて、平和的に独立を実現する。米軍、自衛隊の軍事介入が発生しないように、独立前から世界に向けて琉球独立の正当性を主張 し、国際的な支援体制を構築する。仮に武力介入が生じた場合、中国侵略の仮説と同じく、日米は国際法違反の野蛮な行為をしたとして世界中から批判され、か えって琉球独立の正当性が明らかになるであろう。

(5)50万人以上の世界のウチナーンチュが世界各国において琉球国を国家承認させるための運動を展開し、琉球独立を支援し、妨害活動を監視する。

2013_03_15_ma3

 以上が講演要旨である。

 琉球の400年の時間軸、東アジアの島嶼国とのつながり、国際法・国際関係のパースペクティヴに位置付けられた「琉球独立」への展望の提起であった。従来の「沖縄独立論」を越えた「琉球独立」への可能根拠を論理的で冷静で、かつ熱い情熱のこもった講演であった。(拍手)